星についての調べ方
CCDで撮影していると、「新天体を見つけたかも!?」と思う機会が、たいへん多くあります。
以前の画像には見当たらない星が写ったり、ステラナビゲータやGUIDEに表示されない星が写ったりします。
しかし、注意して下さい。
新星を見つけたと思っても、実はよくあるミラ型の変光星だった、ということもあります。
CCDを使って、暗い彗星を観測する人も増えています。
しかし、注意して下さい。
予報位置に何か写っていても、実はたまたまそこに恒星があって、彗星は写っていなかった、ということもあります。
CCDを使って天体観測をしていると、ちょっと気になる星に出会うことがあります。
食変光星の観測をしている時に、近くにある別の星の明るさが、どんどん変わっていくことに気づくこともあります。
彗星の明るさを測ろうとしている時に、比較星の1つがどうもカタログの値とずれている、と感じることもあります。
現在では、インターネットを使って、手軽にいろいろな情報を得ることができます。
新しい星を見つけた時、暗い彗星を観測した時、ちょっと気になる星に出会った時は、その星について調べてみると良いでしょう。
ここでは、MISAOプロジェクトで新しい星を見つけたり、気になる星を見つけた時に、その星について知るために、どのような調査を行っているかを紹介します。
こういった調査を行って、得られた情報を活用すれば、発見や観測でのミスを減らせるだけでなく、いろいろな知見が得られて、捜索や観測がより楽しくなることと思います。
また、思いがけない貴重な星、珍しい星を見つけるチャンスも生まれて来ることでしょう。
過去画像の調べ方
DSS (Digitized Sky Survey)
過去画像としては、昔から DSS (Digitized Sky Survey) がよく使われてきました。
Bjバンド(青)、Rバンド(赤)、Iバンド(赤外)の3種類の画像があります。
DSS画像が見られるサイトはいくつかあります。
下記のページは、手早く過去画像を見るのに適しています。
The STScI Digitized Sky Survey
http://stdatu.stsci.edu/cgi-bin/dss_form
使い方
DSSには、同じ場所を何度も撮影した画像が揃っています。
それらの画像を一通り見たい時は、下記のページが適しています。
ASTRONOMICAL IMAGE ON-LINE ACCESS INTERFACE
http://dss.mtk.nao.ac.jp/
使い方
極限等級に近い暗い星まで細かく見たい時は、下記のページが適しています。
USNO Flagstaff Station Integrated Image and Catalogue Archive Service
http://www.nofs.navy.mil/data/FchPix/cfra.html
使い方
2MASS (Two Micron All Sky Survey)
2MASS (Two Micron All Sky Survey) は、赤外線で撮影した画像です。
下記のページで見られます。
Interactive 2MASS Image Service
http://irsa.ipac.caltech.edu/applications/2MASS/IM/interactive.html
使い方
ASAS (All Sky Automated Survey)
ASAS (All Sky Automated Survey) の画像は、下記のページで見られます。
The All Sky Automated Survey
http://www.astrouw.edu.pl/~gp/asas/asas.html
使い方
ASASの特徴は、常に新しい画像が追加されている、という点です。
2〜4日以内に撮影されたばかりの、最新の画像を見ることができます。
但し、赤緯が+30度より南の空に限られています。
また、あまり暗い星までは写っていません。
新星など、新しい星を見つけた時には、ASASを調べると良いでしょう。
ASASの最新画像にも写っていれば、新しい星が現われたことは、間違いありません。
直ちに発見を報告して下さい。
CCD画像に関する注意
CCDは、赤外線に強い感度を持っているため、ミラ型のような赤い星は非常に明るく写ることに注意が必要です。
CCD画像と見比べるのであれば、過去画像は2MASSを調べるのが良いでしょう。
DSSであれば、必ずIバンドの画像を見るようにしましょう。
Rバンドの画像を見れば良い、と考えている人もいるかもしれませんが、それは誤りです。
1つ例を紹介しましょう。
MISAOプロジェクトで見つけた新変光星に、MisV0001というミラ型の星があります。
MisV0001
この星について、DSSのRバンドの画像を検索してみて下さい(サイズは5x5分角が良いでしょう)。
そして、MisV0001のページにある発見画像と見比べてみて下さい。
CCDでは明るい星が写っているのに、DSSのRバンドの画像では、そんな明るい星は見当たりません。
DSSのRバンドの画像
しかし、2MASSの画像を検索してみると、ちゃんとMisV0001が写っていることが分かります。
もしDSSのRバンド画像しか調べなかったら、新星と間違えてしまうことになります。
CCDでは10等という明るさで写っても、Rバンドでは15等以下、Bjバンドでは20等以下、ということも珍しくありませんので、注意して下さい。
暗い彗星の確認をする
暗い彗星を撮影した時は、予報位置に淡い星像が写っていたとしても、それが本当に彗星かどうか、確かめる必要があります。
特に、しばらく観測されていなかった彗星は、位置や明るさが予報と違っていることがあります。
彗星の予報位置に、たまたま暗い星があることがあります。
もし、ぼうっとした彗星のような姿の星が写ったとしても、微光星が集まっていたり、銀河であることもあります。
下記のページでは、彗星の予報位置に星が写っていても、実は彗星ではなかった例を、2MASSのリストから調べた結果を紹介しています。
Comets in 2MASS
http://www.aerith.net/astro/2MASS_comet.html
彗星の動きが遅く、明らかな移動を確認できない場合には、DSS画像を調べると良いでしょう。
固有運動の大きい星
過去画像と見比べる時は、固有運動の大きい星に注意して下さい。
特にDSS画像には、20世紀半ばに撮影された古い写真も含まれているため、固有運動による位置のずれが大きくなっています。
下記のページでは、アマチュアが撮影したCCD画像と、DSS画像を見比べた時に、固有運動の大きな星がどれほど位置がずれるか、いくつかの例が紹介されています。
固有運動の大きい星
http://www.aerith.net/misao/report/general/proper-j.html
過去画像を調べる時は、いつ撮影されたものか、気にかけるようにして下さい。
また、過去画像を見る時は、調べたところに星が写っていなくても、少し離れたところに写っていないか、周りをよく見るようにして下さい。
なお、USNO-B1.0のデータを調べると、固有運動の大きい星を知ることができます。
小惑星の調べ方
新星や超新星を見つけた、と思っても、実は、たまたまそこに小惑星がいた、ということがあります。
また、小惑星がたまたま星と重なった時に撮影してしまうと、星の明るさが変わったように見えることもあります。
小惑星を調べないと、誤って新しい変光星として発表してしまうことになります。
![](research/Dysona.gif)
小惑星によって星の明るさが変わって見える例
(撮影:大倉信雄氏)
小惑星については、下記のページで調べることができます。
MPChecker: Minor Planet Checker
http://scully.harvard.edu/~cgi/CheckMP
使い方
MPCheckerでは、彗星も調べることができます。
但し、彗星については明るさが表示されません。暗くて見えない彗星も表示されますので、注意して下さい。
彗星の明るさは、下記のページで調べられます。
彗星カタログ [認識符号順(1995年以降)]
http://www.aerith.net/comet/catalog/index-code-j.html
彗星カタログ [周期彗星番号順]
http://www.aerith.net/comet/catalog/index-periodic-j.html
ライトカーブの調べ方
自動サーベイで星の明るさが変化する様子を記録したライトカーブを見ることができます。
彗星の光度観測では常に、比較星が変光星ではないか、という疑問が付きまといます。
ライトカーブを調べれば、比較星が変光していないことを確認できます。
明るさの変わる星を見つけた時にも、ライトカーブを調べると良いでしょう。
数日おきに暗くなる食変光星なのか、それとも、1〜2年ごとに増減光を繰り返すミラ型なのか、ライトカーブを調べれば分かります。
もし、ライトカーブが普通でなければ、珍しく貴重な星を発見したのかもしれません。
ASAS (All Sky Automated Survey)
ASAS (All Sky Automated Survey) は、南天を中心としたサーベイです。
下記のページでは、赤緯+30度より南にある、14等より明るい星について、ライトカーブを見ることができます。
The All Sky Automated Survey
http://www.astrouw.edu.pl/~gp/asas/asas.html
使い方
ASAS は現在もサーベイを続けています。
新しい画像が撮影されるとすぐにデータが追加されるので、いつでも最新のライトカーブを見られます。
NSVS (Northern Sky Variability Survey)
NSVS (Northern Sky Variability Survey) は、北天を中心としたサーベイです。
下記のページでは、赤緯-38度より北にある、15.5等より明るい星について、ライトカーブを見ることができます。
但し、見られるのは1999年から2000年にかけての、およそ1年分のデータだけです。
Northern Sky Variability Survey
http://skydot.lanl.gov/nsvs/nsvs.php
使い方
TASS (The Amateur Sky Survey)
下記のページでは、北半球にある14等より明るい星について、ライトカーブを見ることができます。
The TASS MarkIV Engineering Run Database (Download Data)
http://sallman.tass-survey.org/servlet/markiv/template/DataDownload.vm
使い方
ライトカーブのグラフを描く
Comet for Windowsを使うと、ASASやNSVSで検索した光度データを読み込み、ライトカーブのグラフを描くことができます。
描く範囲を限定したり、データを取捨選択したり、周期を指定して1周期分のライトカーブを描くこともできます。
下記のページでは、Comet for Windowsを使ったライトカーブのグラフの描き方を説明しています。
Comet for Windows チュートリアル
変光星はくちょう座χの光度解析
データの調べ方
DSSや2MASSの画像を見るだけでもおおよそのことは分かりますが、位置や光度の正確な値を知りたい時や、その他の情報を知りたい時には、恒星カタログを検索して、データを調べる必要があります。
彗星や新星、変光星の眼視観測をする際の比較星の光度は、明るい星であれば、ステラナビゲータやGUIDE、Comet for Windowsなどを使って調べられます。
しかし、12等以下の暗い星を観測した時は、ASASやTASSのデータを調べた方が良いでしょう。
ASAS (All Sky Automated Survey)
下記のページでは、赤緯+30度より南にある、14等より明るい星について、比較星のV光度を調べることができます。
The All Sky Automated Survey
http://www.astrouw.edu.pl/~gp/asas/asas.html
使い方
ASASのV光度は、彗星の眼視観測の比較星として推奨されています。
ICQのコードは「AU」です。
TASS (The Amateur Sky Survey)
下記のページでは、北半球にある14等より明るい星について、比較星のV光度を調べることができます。
The TASS MarkIV Engineering Run Database (Star List)
http://sallman.tass-survey.org/servlet/markiv/template/StarQuery.vm
使い方
TASSのV光度は、彗星の眼視観測の比較星として推奨されています。
ICQのコードは「TA」です。
USNO-A2.0 / USNO-B1.0
USNO-A2.0 や USNO-B1.0 には、およそ20等までの星が載っています。
DSS画像に写っている星のデータを調べる時は、これらの恒星カタログを検索すると良いでしょう。
USNO-B1.0 には、固有運動の値が記録されている点が特徴です。
USNO-A2.0 / USNO-B1.0 のデータは、下記のページで調べられます。
USNO Flagstaff Station Integrated Image and Catalogue Archive Service
http://www.nofs.navy.mil/data/FchPix/cfra.html
使い方
2MASS
下記のページでは、全天の星について、赤外線の光度や色を調べられます。
J, H, K の5色の光度データが載っています。
GATOR
http://irsa.ipac.caltech.edu/applications/Gator/
使い方
SDSS (Sloan Digital Sky Survey)
SDSS (Sloan Digital Sky Survey) は、およそ25等までの星について、u', g', r', i', z' の5色の光度データが載っています。
但し、データが得られるのは、銀河の多い領域に限られています。
Sloan Digital Sky Survey / SkyServer / Radial Search
http://cas.sdss.org/dr3/en/tools/search/radial.asp
使い方
PIXYシステム2を使った調べ方
GSC (Guide Star Catalog) や USNO-A2.0 のCD-ROMを持っていれば、MISAOプロジェクトで開発したPIXYシステム2を使って、データを調べることができます。
下記のページでは、PIXYシステム2を使ったデータの調べ方を紹介しています。
カタログの調査
http://www.aerith.net/misao/pixy/tutorial/catalog-j.html
星の色の調べ方
恒星カタログには、いくつかのバンドごとに、星の明るさが載っています。
それにより、星の色が分かります。
USNO-A2.0 には、R, B という、2種類の光度が載っています。
USNO-B1.0 には、B1, B2, R1, R2という、4種類の光度が載っています。
2MASSには、J, H, Ksという、3種類の光度が載っています。
星の色は、2つのバンドの明るさの差で表します。
標準では、Bバンド(青)の明るさと、Vバンド(眼視)の明るさとの差を取った、「B-V」という値で表します。
おおよそ、B-V が0より小さければ青い星、1より大きければ赤い星です。
恒星カタログには、それぞれ独自のバンドで測った明るさが載っているため、データを見ただけでは、どれくらい青い/赤いのか分かりません。
そこで、光度システムの変換式を使って、標準的な色のデータに変換する必要があります。
下記のページでは、様々な恒星カタログの明るさのデータから、標準的な色のデータを求めるための変換式が紹介されています。
Magnitude System and Color Conversion Formulas
http://www.aerith.net/astro/color_conversion.html
MISAOプロジェクトでは、新しい変光星を見つけた時は、USNO-A2.0 で星の色を調べています。
色が赤くなければ短周期変光星と思われますので、集中的に観測するようにしています。
こうして、星の色を基に、MisV1105のような食変光星を発見しています。
MisV1105
研究成果の調べ方
SIMBAD
下記のページでは、過去に行われた様々な研究・観測の成果を調べることができます。
SIMBAD Astronomical Database
http://simbad.u-strasbg.fr/Simbad
使い方
SDSS (Sloan Digital Sky Survey)
SDSS (Sloan Digital Sky Survey) では、u', g', r', i', z' の5色の光度データや画像、スペクトルなどのデータが見られます。
但し、画像が見られるのは、ごく一部の領域に限られています。
また、スペクトルが見られるのは、ごく一部の天体に限られています。
Sloan Digital Sky Survey / SkyServer / Explore Tool
http://skyserver.sdss.org/edr/en/tools/explore/
使い方
新しい変光星
明るさが変わる星を見つけた時は、誰かがすでに発見していないか、調べる必要があります。
SIMBADで検索すると、すでに変光星として発見されていれば、変光星の名前が表示されます。
但し、論文として発表されていない変光星は表示されませんので、注意して下さい。
特別な星
過去の研究成果を調べると、思いがけない情報が見つかって、貴重な星、珍しい星の発見につながることがあります。
1つ例を紹介しましょう。
MISAOプロジェクトで見つけた新変光星に、MisV1147という星があります。
MisV1147
この星についてSIMBADで検索してみると、HBHA 65-53 という名前が付いていることが分かります。
この名前について更に調べてみると、かつて、水素の輝線が強い星の研究で取り上げられていたことが分かります。
この情報を基に、MisV1147はたくさんの観測者の注目を集めるようになりました。
その結果、この星は生まれたばかりの星で、しかも、その中でも特別な星であることが分かりました。
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