MISAO Project

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画像検査の処理手順

PIXYシステムの実装について述べる。 星像検出からカタログとのマッチング、星像の位置と光度の測定に至るまでの、 一連の処理を順番に紹介する。

  1. スカイ画像の作成

    画像の背景にあたるスカイ画像を作成する。 具体的には、画像に39×39ピクセルのメディアンフィルタを適用する。 この方法は、天体画像に於ける星像は、通常の画像に於ける白ノイズと似た性質 を持っていることを利用したものである。 文献 [2]にある、M51の画像から星雲に重なる恒星を除去し、星雲のみの 画像を作成する手法も同様の原理を用いている。

  2. ノイズの大きさを求める

    ピクセル値がスカイ画像よりも大きいピクセルだけを選んで、ピクセル値とスカ イ値との差の平均値と標準偏差 tex2html_wrap_inline165 'を計算する。 この tex2html_wrap_inline167 'を仮のノイズの大きさとする。 ここで、ピクセル値とスカイ値との差が tex2html_wrap_inline169 'よりも大きければ、そのピ クセルは星像の一部と考えられる。 そこで、ピクセル値とスカイ値との差が tex2html_wrap_inline171 'よりも小さいピクセルのみ を選んで、改めて差の平均値を求める。 この平均値の4倍をノイズの大きさの上限値 tex2html_wrap_inline173 とする。

  3. 星像密度が一定になるように、閾値を動的に決定

    一般に、ある閾値よりもピクセル値が大きいものを星とみなす場合は、ピクセル 値の標準偏差 tex2html_wrap_inline175 を用いて、スカイよりも tex2html_wrap_inline177 ないしは tex2html_wrap_inline179 だ け大きい値を閾値とすることが多い。 しかし、本プロジェクトでは多様な画像を扱うため、適切な tex2html_wrap_inline181 の係数が画 像によって大きく異なってしまう。 そこで、画像中の星像の密度の限界を画像によらず一定と仮定し、動的に閾値を 決定することで、どのような画像でも極限等級近い星まで検出できるようにする。 まず、スカイ値 tex2html_wrap_inline183 を閾値として、星像を検出する。 ここで、検出された星像の個数を数え、1星像あたりのピクセル数を計算する。 この段階では、1星像あたりのピクセル数が200に近くなるようにする。 もし密度が低ければ閾値を下げ、密度が高ければ閾値を上げて再び星像を検出す る。 経験上、1星像あたりのピクセル数が200より少なくなると、密度が高くなりすぎ て、複数の星がくっついてしまうことが多くなり、マッチングに影響をきたす。 逆に、元々写っている恒星が少ない場合は大量のノイズを含むことになるが、こ れは後の処理で対処する。 尚、この時点では密度を求めるだけなので、星像検出は単純に閾値を越えるピク セルが隣接していれば1つの星像としている。

  4. 暫定的に星像検出

    求められた tex2html_wrap_inline185 を用いて、星像を検出する。 まず、全ピクセルからスカイの値を引く。 0より小さくなったピクセルの値は0とする。 この結果、背景のない恒星だけの画像が得られる。 この画像から星像を検出する手順は次の通り。 まず、ピークとなるピクセルを探す。 その近傍で、ピークからある一定の高さを引いたところを閾値とし、それよりも 値が大きい隣接ピクセルをまとめて1つの星像とみなす。 これらのピクセルの重心位置を得られた星像の位置、ピクセル値の総和を光量と する。 次に、残りのピクセルの中からピークを探し、同様に一定の値を引いて閾値とし、 隣接ピクセルをまとめる。 この時、既に検出した星像のいずれか1つに隣接している場合は、その星像の裾 野であることになる。 よって、その星像の光量に今回まとめたピクセルの総和を加える。 また、既に検出した星像の2つ以上に隣接している場合は、複数の星像が重なり 合っている部分ということになる。 この場合は、今回まとめたピクセルは無視する。 もしいずれの星像にも隣接していない場合は、新しい星像として登録する。 この操作を、すべてのピクセルを調べ尽くすまで繰り返す。 ここで、閾値を下げる一定の値は、ノイズの大きさと、その時点でのピーク値の 対数との積とする。 即ち、2つの星像に分離されるのは、ピーク間の窪みがノイズの大きさよりも大 きい場合とする。 また、ノイズの大きさはピクセル値の対数に比例するものと仮定している。 検出された各星像について、星像の形をガウス分布と仮定し、その半径を求めて おく。 この時点で個々の星像の重心位置と光量が定まる。 しかし、スカイよりも大きいが閾値よりも小さいピクセルを無視しているため、 淡く広がった天体や近接二重星の光量は、実際よりもかなり小さく見積もられて しまっている。

  5. 星像の影響力を計算し、ピクセル値を各星像に分配

    求められた各星像のピークと半径から、各ピクセルについて、各星像が及ぼす影 響力を計算し、各ピクセルのピクセル値を、影響力に応じてそれぞれの星像に分 配する。 但し、実際には4つ以上の恒星の光が重なり合っているとみなせる場合はほとん どないため、影響力の大きい上位3つの星像に分配している。 また、影響力の届く範囲を制限し、いずれの星像からも遠く離れたピクセルにつ いては、どこにも分配しないようにする。 この時点で、各星像について、星像の形をガウス分布と仮定し、改めてその半径 を求めておく。

  6. 星像の影響力を再計算し、ピクセル値を各星像に分配

    計算し直された星像の半径を用いて、各ピクセルの値を各星像に再分配する。 今度は、影響力の届く範囲を星像の半径に応じて制限する。 この結果が、各星像の光量となる。 星像の半径から影響力を求め、それに応じてピクセルの値を分配しているため、 裾野が重なり合った近接二重星や、淡く広がった天体の光量もそれぞれ適切に求 められる。

  7. 暫定的に光量を光度に変換

    予め入力した概略の赤経赤緯と画角に基づき、カタログからデータを読み込む。 ここで、検出した星像とカタログとのマッチングを行うために、星像の光量を通 常の光度(等級)に換算する。 具体的には、検出した星像とカタログから読み込んだデータとをそれぞれ明るい 順に並べる。 そして、カタログ中のうちの最も明るいデータの光度を最も明るい星像の光度と する。 2番目以降も同様に、順番に光度を割り当てて行く。 この手法は星像の相対的な明るさの順序関係だけを利用しているために、かなり 精度が悪いが、これは後の処理で対処する。

  8. マッチング
     

    検出した星像とカタログから読み込んだデータとを比較し、画像が星空のどこに 当たるかを求める。 具体的な手順は次の通り。 まず、カタログから読み込んだデータをプロットし、画像4枚分の領域の星図を 作成する。 検出した星像から任意の3個を選んで三角形を作り、これらと光度が似た3つの恒 星をその星図上から探す。 もしその3星が作る三角形が相似であれば、これらの3個の星像と3個のデータは 対応するものである可能性がある。 そこで、星像の座標を星図の座標に変換する写像関数(x,y方向の平行移動量、拡 大率、回転角の4つのパラメータ)を求める。 ただ1組の三角形だけでは対応が誤っている可能性もあるが、これをすべての三 角形に対して行うと、真の写像関数を求めることができる。 予め入力した撮影方向の見込み誤差が大きい場合は、予想される範囲全体を覆う ように上記の処理を繰り返す。 こうして、画像上の任意の点が星図上のどこに位置するのかが把握できた。 この時点で、画像とほぼ同じ領域になるように星図を作成し直す。

  9. 暫定的なペアリング

    求められた写像関数を用いて、検出した個々の星像と、カタログ中のデータとを ペアにする。 この時点では、検出した星像の光度は暫定的に割り当てられただけなので、誤差 が大きい。 そのため、カタログ値と光度が大きく異なって、ペアではないと判定されてしま う可能性がある。 しかし、ここでのペアリングは、検出した星像の光度を正確に求めるために行う だけであるので、このことは問題にはならない。

  10. 光量を正確な光度に変換する

    ペアになったものを利用し、検出した星像の光量の対数をとったものと、光度 (等級)との変換関数を計算する。 変換関数は直線とし、最小2乗法で求める。 この際、明るい星ほど密度が薄くなるため、明るさに応じた重み付けを行う。 この変換関数を用いて、検出したすべての星像の光度を改めて計算し直す。 これがPIXYシステムによる光度測定値となる。

  11. ペアリングと極限等級の設定

    計算し直された光度を用いて、改めて検出した星像とカタログのデータとをペア にする。 ところで、星像検出の際に、元々画像に写っている恒星数が少ない場合でも、強 制的に密度が一定になるようにしていた。 そのため、検出した星像のうち、暗いものの大部分はノイズである可能性がある。 ここで、有効極限等級を定めて、暗いノイズを除去する。 検出した星像を明るい順に並べ、各星像について、前後10個の星像のう ち対応するペアがカタログに見つかったものの割合を求める。 有効極限等級より明るい時には、ほぼすべての星像について対応するペアが見つ かっているはずだが、有効極限等級より暗い時にはノイズが混じるため、この割 合は小さくなる。 暗い星像になる程、この割合は次第に減少していく。 そこで、この割合が平均的に8割を下回るようになる位置を有効極限等級とし、 それよりも暗い星像はすべてノイズとして除去する。 前述した通り、恒星と白ノイズは性質が似通っているため、このようにカタログ と比較して閾値を定める方法が、最も有効に暗い星まで検出できる。 有効極限等級よりも明るいものでペアにならなかったものが、新天体またはカタ ログエラーの候補となる。

  12. 写像関数の再計算

    8で求めた写像関数は、計算に用いた星像数が少なく、精 度が悪い。 そこで、検出した星像とカタログデータとの最終的なペアのリストを元に、最小 2乗法によって正確な写像関数の値を計算し直す。 ここで求められた写像関数を用いて、検出した星像の赤経赤緯を計算する。 これがPIXYシステムによる位置測定値となる。

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