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    画像と星図との比較が困難な場所    

このページでは、画像と、USNO-A2.0を使った星図とを、見比べることが困難な場所について紹介します。

USNO-A2.0には、およそ20等までの星が網羅されているため、特に画角の狭いCCD画像の場合は、星図と見比べて、星の位置や光度を求めるのに、便利です。

USNO-A2.0を使うと、彗星や小惑星の精測位置を、充分な精度で求めることができます。 しかし、撮影した場所によっては、画像と、USNO-A2.0を使った星図とで、星の配列がうまく一致しないことがあります。 特に、いて座の天の川の中心では、画像に写った星と、USNO-A2.0に載っている星とを見比べても、どれとどれが同じ星なのか、良く分からないことがあります。

PIXYシステム2を使って画像を検査すると、画像と星図との間で自動的にマッチングをします。 その結果、両方にある星は、緑色で表示されます。 画像にしか写っていない星、星図にしか載っていない星は、赤い色で表示されます。

たいてい、画像を検査した結果は、次のようになります。 画像と星図を見比べると、星の配列はほとんど一致しています。 PIXYシステム2も、ほとんどの星を緑色で表示しています。 赤く描かれる、画像にしか写っていない星、星図にしか載っていない星は、わずかしかありません。 このようなケースでは、画像と星図を見比べて、どれとどれが同じ星かは、すぐに分かります。

赤経18時、赤緯-10度付近のUSNO-A2.0のデータ

しかし、赤経18時、赤緯-28度から-30度の領域では、画像と星図との間で、星の配列がほとんど一致しなくなります。 この領域を撮影した画像をPIXYシステム2で検査すると、赤い色で描かれる星ばかりになり、実際の画像と、USNO-A2.0のデータとが、一致しないことが分かります。

門田健一氏が撮影した、赤緯-28度、-29度、-30度の画像の、それぞれの検査結果を紹介します。 いて座の天の川の中心でも、ちょっとした場所の違いで、際だった特徴が見られます。

赤経18時、赤緯-28度付近では、USNO-A2.0を使った星図には、明るい星が集まった、いくつかの『散開星団』があるのが目立ちます。 しかし、実際の画像では、そのように、ところどころに部分的に星が密集しているのではなく、画像全体にまんべんなく、星がびっしりと写っていることが分かります。 『散開星団』の星の多くは、赤い色で描かれているので、画像には写っていないことが分かります。

赤経18時、赤緯-28度付近のUSNO-A2.0のデータ

赤経18時、赤緯-29度付近では、USNO-A2.0を使った星図では、まるで暗黒星雲に覆われているかのように、ほとんど星が存在しないように見えます。 しかし、実際の画像では、画像全体にまんべんなく、星がびっしりと写っていることが分かります。 つまり、この付近では、USNO-A2.0では星のデータがほとんど欠落しています。

赤経18時、赤緯-29度付近のUSNO-A2.0のデータ

赤経18時、赤緯-30度付近では、USNO-A2.0を使って星図を描くと、一見、何の問題もなく思えます。 しかし、PIXYシステム2で検査すると、多くの明るい星が赤く描かれ、画像と星図との間で、星の配列が一致していないことが分かります。 このような領域では、画像と星図を見比べて、どれとどれが同じ星なのかを調べるのは、とても難しくなります。 誤って同定してしまう可能性が高い領域です。

赤経18時、赤緯-30度付近のUSNO-A2.0のデータ

また、これらの領域では、画像にしか写っていない、赤く描かれる星が多く検出されます。 それほど暗くない星でも、USNO-A2.0にデータが載っていないものが多くあることが分かります。

このような領域で、USNO-A2.0を使って彗星や小惑星の位置を求める場合は、良く注意して、正しい比較星を選ぶ必要があります。

PIXYシステム2は、このような領域であっても、画像から検出した星像と、USNO-A2.0のデータとの間で、どれとどれが一致するかを、自動的に求めることができます。

余談ですが、いて座の天の川の中心以外でも、USNO-A2.0には、ところどころに、奇妙なデータが載っていることがあります。 例えば、赤経17時、赤緯-20度付近も、そんな領域の1つです。 USNO-A2.0を使って、この辺りの星図を描くと、南北に伸びた、実在しない星の帯が表示されます。

赤経17時、赤緯-20度付近のUSNO-A2.0のデータ

本研究に関して、西村史朗氏が、更に詳しい調査を行って下さいました。

    USNO-A2.0のエラー    

西村史朗氏

赤経17時、赤緯-20度付近

簡単のためにUSNO-A2.0だけを取り上げて、VizieRによる検索で、17h01m30s、-20d 20' を中心に半径20'からすべての星をリストしました。しかし指摘されているよ うな現象はある深さで切ったときに出てくるようです。門田氏の画像の深さを見て およそR<15等で切ってみると、図1のように顕著に見えてきます。


図1:17h01m30s、-20d20' を中心に半径20'の範囲でプロット

異常が起こっている天域は、17h01m26s - 17h01m43s, -20d04'30" - -20d34'48" の長方形でほぼ南北ですが、北が約1度ほど東に寄っているように見えます。また 南端は境界がぼやけているようです。

次に上の領域の内外に別けて、R等級−B等級をプロットしました。X軸がR等 級、Y軸がB等級です。


図2:内側領域のR等級−B等級

図3:外側領域のR等級−B等級

外側領域では暗い星と少数の例外を除いて、ほぼB=R+1.5の線のまわりに分 布しています。ばらつきは星自身の色の分布を考えれば当然です。この線はGSC のR−Bプロットと同様で、2つのカタログの測光システムが似ていることが分り ます。


図4:GSCのR等級−B等級

内側領域では大部分の星が上記の線から左上方にずれています。

(内外から)明るくてずれの大きい星を選んでGSCと同定し、そのR・B等級と 比較すると、Bはほぼ同じ、Rは3−5等もUSNOの方が明るすぎることが分り ました。これを一般化するのは危険かもしれませんが、多分他の星も実在する星で R等級が明るすぎるように記載されているために、実際の画像と比較すると過剰に 見えて来たのだと推論しています。

USNO-B1.0では上記領域の異常は解消しているようです。

赤経18時、赤緯-28度/-30度付近

18h、−28d・−30dの2天域に見られる異常については、どこを調べるべ きかよく分らなかったのですが、上と同様なアプローチを試みました。

−30dのUSNOプロットの左上方に緑の大きな星がありますが、この近辺のつもり で、18h02m20s、-29d50m を中心に半径20'の中をR<16等だけをピックアップ しました。R−Bプロットを無制限に行うと、


図5:18h02m20s、-29d50m 付近のR等級−B等級

これからB等級に特異な値が数多くあるのが見えます(99.9、80付近、21-25のギャッ プなど)。それはさておき、上の例と同じスケールでプロットすると


図6:18h02m20s、-29d50m を中心に半径20'の範囲でプロット

上下に広く分布しています。

この付近は、GSC2でB、Rが揃ったデータが少ないので、USNO-A1.0などとも比較し て、平均的な線から大きくはずれた星を同定すると、概ね平均線に近づくようなセ ンスで移動するようです。

この天域ではUSNOカタログでM-flagに*印がついたレコードが多数あります。

赤経18時、赤緯-29度付近

最後に18h,-29dのところですが、その位置を中心に半径20'のUSNOの星全部をプロッ トしました。


図7:18h,-29d を中心に半径20'の範囲でプロット

確かに星の全くない天域が広がっています。DSSでみてもあまり回りと違いがあるよ うには見えませんが、何故こんなことになるのか全く分りません。

M-flag

M-flagがあるものとないものに別けて、(B−R)図をプロットして みましたが、あまり顕著な差は見えないようです。ただB−Rの標準ラインより下(B が明るすぎる)のはflag有りの方だけのようです。B>22.0の星については図示していま せんが双方にあります。(R>16.0はVizieR検索で除外してあります。)


図8:18h02m20s、-29d50m を中心に半径20'の範囲で、M-flagのある星をプロット

図9:18h02m20s、-29d50m を中心に半径20'の範囲で、M-flagのない星をプロット

flagはUSNO作成者が測光精度に問題があると警告しているわけで、USNOの使用目的 にもより、除外するかはともかく十分注意した方がよいと思います。

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