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    星の光度の測り方    

  • 「測光のガイドライン」は、VSOLJ(日本変光星観測者連盟)のメーリングリストで加藤太一氏と清田誠一郎氏にご教示頂いた内容をまとめたものです。

このページでは、PIXYシステム2を使って検査した画像から、天体の光度を正しく求める方法を紹介します。

PIXYシステム2のページ

o 測光のガイドライン

撮影に使ったフィルターやCCD、そして使用する比較星のカタログによって、測光方法は3通りに分かれます。

(1) 標準フィルターを使った場合

V や B, Rc といった標準フィルターを使って撮影した場合は、フィルターと同じ標準システムの光度が記載されているカタログを使用します。例えば、Vバンドフィルターで撮影した場合は、V光度が記載されているカタログ(例えば Tycho Catalogue 等)を使用します。

この時、ある星のV光度がカタログに10.0等と記載されていれば、それより2.5倍明るい星の光度は9.0等となります。

原則として、標準フィルターはCCDチップごとに異なるものとなります。使用しているCCDのチップに適したフィルターを使う必要があります。その代わり、このようにして求めた標準システムでの光度は、他の観測者の同じバンドの光度と並べて比較することができます。

なお、使用したフィルターの標準システムの光度がカタログに記載されていない場合は、他のバンドの光度を使って換算することになります。例えば、Rcフィルターで撮影した場合、Tycho Catalogue にはRc光度は記載されていません。そのため、カタログに記載されているV光度とB-Vの値から、

Rc = V - 0.5 * (B-V)

という近似式で求めたRc光度を使います。また、Icフィルターで撮影した場合は、

Ic = B - 2.36 * (B-V)

という近似式で求めたIc光度を使います。

Natali F., Natali G., Pompei E., Pedichini F., 1994, A&A 289, 756
The use of the (B-I) color index and applications of the (B-I) versus (B-V) relationship

(2) 非標準システムの場合

ノーフィルターCCD画像や、標準でないフィルター(赤外カットフィルター等)を使って撮影した場合は、その観測システムの特性を表す式を求め、カタログに載っている標準システムでの光度から、貴方のシステムに適した光度に換算する必要があります。

一般に観測システムの特性は、V光度とB-Vの値から、

観測システムの光度 = V + k * (B-V)

という1次式で近似します。

KAFやTC-241等、いくつかの代表的なCCDチップについては、Arne A. Henden氏の研究でシステムの特性を表す式が求められています。

Henden, A. A., "The M67 Unfiltered Photometry Experiment",
2000, Journal AAVSO vol. 29, page 35.
ftp://ftp.nofs.navy.mil/pub/outgoing/aah/m67/paper/

それ以外のCCDチップを使った場合や、標準でないフィルターを使った場合は、まず初めに、観測した画像からシステム特性を表す式を求める必要があります。

システム特性を表す式が求められたら、Tycho Catalogue のような、V光度とB-Vの値が記載されているカタログから、システム特性を表す式で貴方のシステムに適した光度を求め、その値と比較します。

例えば、ある星のV光度とB-Vの値がカタログに

V光度 = 10.0等
B-V = 0.8等

と記載されているとします。CCDチップがKAFで、ノーフィルター画像であれば、Henden氏の研究から、システム特性は

観測システムの光度 = V - 0.5174 * (B-V)

と分かります。よって、この星の貴方のシステムでの光度は、

観測システムの光度 = 10.0 - 0.5174 * 0.8
= 10.0 - 0.41392
= 9.6

となります。この星より2.5倍明るい星があれば、その光度は8.6等となります。

こうして得られた光度は、貴方が使用したCCDチップとフィルターに固有の光度です。同じ機材で観測した他の観測者のデータとは比較できますが、CCDチップやフィルターが異なる場合は、比較できません。

(3) 単純な光度比較

使用しているCCDチップやフィルターのシステム特性を表す式が分からない場合や、V光度やB-Vの値が分かっている星が写野に入っていない場合などでは、正規の方法で光度を決めることができません。

特に、写野が狭い場合は、GSCやUSNO-A2.0などのカタログでしか、天体の光度が分からない場合もあります。

その場合は、カタログに記載されている光度と単純に比較して、目的の天体の光度を決めるしかありません。

例えば、ある星の光度が、USNO-A2.0カタログでは

R光度 = 10.0等
B光度 = 14.0等

と記載されているとします。この星より2.5倍明るい星があれば、USNO-A2.0のR光度と比較した場合は9.0等、B光度と比較した場合は13.0等となります。

こうして得られた光度は、真の値から大きく外れている可能性があります。また、基準が一定ではないので、同じカタログを使っていてもばらつきが生じます。例えば、同じ明るさの星が、ある画像では10.0等となり、もう1枚の画像では11.0等となることもあり得ます。

(A) 追記

光度測定の基準となる星は、B-V の値が0.0等というものです。 もし画像内に B-V の値が0.0等という星があれば、その星の光度と比較すること で、どのようなフィルターを使っていても、正しい光度を求めることができま す。 この場合は、システム特性の式を求める必要もありません。

但し、実際には B-V の値が0.0等であっても、光度測定の基準として使えない種 類の星も存在します。そのため、画像内に1個 B-V の値が0.0等の星があっても、 それだけを基準として光度を測定することは推奨しません。

o PIXYシステム2を使った測光の方法

まず、画像の検査の手順に従って画像を検査し、結果をXMLファイルに保存しておきます。

次に、写野内の彗星、小惑星、変光星、星雲星団の調査の手順に従って、測光で使用するカタログと同定を行います。例えば、画像の検査ではUSNO-A2.0を使用したが、Tycho Catalogue を使ってシステム特性を考慮して測光を行う場合は、Tycho Catalogue との同定が必要です。同定後は、結果をXMLファイルに保存しておきます。尚、画像の検査で使用したカタログを使って測光を行う場合は、同定は不要です。

同定を行い、測光で使用するカタログのデータがXMLファイルに記録されたので、いよいよ測光を行います。

PIXYシステム2を起動し、メインメニュー画面から、「Review」を選びます。

すると、新しい仮想デスクトップウィンドウが開きます。

メニューの[File] - [Open XML File]を選び、検査結果のXMLファイルを開きます。

次に、メニューの[Analysis] - [Photometry]を選びます。 すると、測光の設定を行うダイアログが開きます。

測光のガイドラインで紹介した3通りの方法のうち、「標準フィルターを使った場合」もしくは「非標準システムの場合」に従って光度を求める場合は、Regular Photometry タブを選びます。「単純な光度比較」に従って光度を求める場合は、Simple Comparison タブを選びます。

Regular Photometry タブを選んだ場合は、次のような画面になります。

標準フィルターを使って撮影した場合は、Standard system をチェックし、フィルターを選びます。

ノーフィルターCCD画像の場合で、使用したCCDチップがリストにあれば、Unfiltered CCD image をチェックし、CCDチップを選びます。

使用したCCDチップがリストに無いか、標準でないフィルターを使用した場合は、Other instruments をチェックします。 システム特性を表す式が分かっている場合は、B-V の係数を入力します。 Calculate system formula をチェックすると、現在の画像からシステム特性を表す式を求め、その式を使って測光を行うことになります。

最後に、比較するカタログを選びます。

Simple Comparison タブを選んだ場合は、次のような画面になります。

Average fitting を選ぶと、測定光度とカタログ光度の差の平均値が0になるように光度が決められます。

Line fitting を選ぶと、カタログの光度と検出した星像のカウント値の対数を満たす直線を求め、その直線から光度が決められます。

通常は Average fitting を選びます。

最後に、比較するカタログを選びます。

設定が終わったらOKボタンを押します。 すると、カタログの光度とデータ、そして求められた光度と残差が一覧表で表示されます。 表の上には、データ数と測定光度の誤差、星像のピクセルカウントを光度に変換する式が表示されています。 Calculate system formula をチェックした場合は、現在の画像から求められたシステム特性を表す式も表示されます。

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この一覧表で、チェックボックスのチェックを付けたり外したりすると、測定光度やシステム特性を表す式が変化します。 通常は、Residual をクリックして残差の大きい順に並べ換え、残差の大きいものを除外することになります。

残差の最も大きいデータを1つ除外した例。 Position の値から、この星は画像の端にあって明るさを正しく測定できていないことが分かる。
また、この画像のシステム特性の式は、次のように求められている。

観測システムの光度 = V - 0.6679 * (B-V)

最後に Apply ボタンを押すと、検出されたすべての星の光度が決まります。

測光が終了したら、検査結果をXMLファイルに保存しておきましょう。

あとは、Detected Stars チャートで星像をクリックすると、測定光度が画面に表示されます。

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