MISAO Project

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画像からの新天体発見の実例

既に世界各地の天文台や一部の個人が、新天体発見プロジェクトに取り組んで、 次々と成果を挙げている。 ここでは、それらの中から太陽観測衛星SOHOのチームと、日本の小林隆男氏の場 合を紹介し、新天体発見の現状を把握し、解決すべき課題を考えてみる。

SOHOチームは太陽と地球のラグランジュ点にある人工衛星のコロナグラフを使っ て、1995年12月以来、太陽のモニタ観測を行なっている。 SOHOチームの本来の目的は新天体の発見ではないが、太陽をかすめることで有名 な一連のクロイツ群彗星が何度も偶然に写っていたため、今年になってから本格 的に太陽近傍の彗星の発見を試みている。 初めは目で検出していたが、その後自動検出プログラムを作成し、昨年度の画像 から新たにいくつもの彗星を発見しているのは周知の通りである。

SOHOチームの検出方法は、時間的に連続した画像の差分から移動天体を検出する というものである。その際、画像の各ピクセルの値の標準偏差 tex2html_wrap_inline127 を求め ておき、 tex2html_wrap_inline129 の2〜3倍を閾値とし、それ以上のものであれば移動天体の星 像、それ以下であればノイズとみなしている。

SOHOチームが自動プログラムで再度画像をチェックして改めて多数の彗星を発見 できたという事実は、他の目的で撮影された画像からの新天体発見は意識せずに は困難で、チェックされない画像には新天体が埋もれている可能性を強く示唆し ている。 また、新天体の発見ではないが、ずっと太陽に近くて地上からは観測できなかっ た C/1996 J1 ( Evans-Drinkwater ) 彗星がバースト現象を起こしていたことが 1997年5月になって分かったということがあった。 この彗星は1996年12月から翌1月にかけて太陽のごく近くにいたため、SOHOの画 像に写っている可能性があった。 また、1997年8月現在でまだ観測されていない 85P/Boethin 彗星も、太陽のごく 近くにいるため、SOHOの画像には写っている可能性がある。 SOHOは太陽を観測するのが目的だが、これらの彗星の例のように、太陽に関する 事以外にも重要な情報を含んでいる。 このように、ある目的のための画像が、他の目的にとっても非常に有用な情報を 持っていることは良くある。 だが現状では、SOHOチームのように興味を持って調査することは稀で、多くの場 合は限られた目的にのみ使われ、その他の有用な情報は死蔵されてしまう。

また、日本の代表的なアマチュアの1人である小林隆男氏は、自作のシステムを 使って画像から新天体を検出している。 その成果が1996年から1997年にかけての膨大な量の小惑星や、P/1997 B1 ( Kobayashi ) 彗星の発見である。

小林氏の方法は、最終的にはコンピュータのディスプレイを見て、人間が目で検 出するというものである。 そのため、どうしても時間がかかるし、また検査の段階における見落しの可能性 もあり得るのではないだろうか。 更に、小林氏のシステムは当然氏が自分の画像を検査するために使用しているの で、一般の人が簡単に利用できるようにはなっていない。 小林氏は観測を冬季に限って行なっており、残りの半年間はシステムが死蔵され ることになる。

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