MISAO Project

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    はじめての新星を発見:MisV1181    

2002年11月9日
吉田誠一/MISAOプロジェクト

2002年10月27日、MISAOプロジェクトでは初めての新星(らしき天体)、 MisV1181を発見しました。

しかし、アマチュアの新星や新彗星発見には良くあることですが、最終的に新 星ではないか、と考えるまでには、いくつかの紆余曲折がありました。そして、 多くの方からのお力添えを頂きました。ここでは、新星(らしき天体)として 発見を公表するまでの経緯をご紹介します。

MisV1181は、John Greavesさん、吉田誠一、大倉信雄さん、門田健一さんが共 同で発見した、2001年の新星(らしき天体)です。ケフェウス座にあり、位置 は、赤経22h58m09s.12、赤緯+66°21'12".4(2000.0分点)です。大倉信雄さん の2001年9月19日の画像に12.7等で写っていましたが、2001年11月10日には、 14.3等と減光していました。村松利一さんの観測では、現在はすでに、およそ 20等まで暗くなっています。

2001年のMisV1181(撮影:大倉信雄さん)

MisV1181の光度変化

このMisV1181は、大倉信雄さんからご提供頂いた画像について、「明るい新天 体捜索」をしている中で、新変光星候補の1つとして発見しました。

MISAOプロジェクトでは、ご提供頂いた画像について、2通りの調査を行って います。

1つは「新変光星捜索」です。これは、同じ場所を異なる日に撮影した画像と 比べて、変光している星を探す、というものです。MISAOプロジェクトの新変 光星は、ほとんどがこの調査で見つかっています。

もう1つが「明るい新天体捜索」です。こちらは、画像に明るく写っているの に、USNO-A2.0星表にデータが載っていない星をリストアップして、過去の DSS(Digitized Sky Survey)画像を調べ、新天体を探す、というものです。

今回の新星(らしき天体)、MisV1181は、吉田誠一がPIXYシステム2を使って 行った「明るい新天体捜索」で、見つかりました。新星(らしき天体)が「明 るい新天体捜索」で見つかるのは、当然と思われるかもしれません。しかし、 1つの偶然から、すぐにはこの星が新星(らしき天体)だとは、気づきません でした。

この星は確かに、DSS画像には写っていませんでした。しかし、PIXYシステム 2は、この星のすぐ側に、赤外線天体IRAS 22562+6606がある、と表示してい ました。

赤外線天体は、写真では暗く写るので、DSS画像に写っていなかったり、 USNO-A2.0に載っていないことは、珍しくありません。そして、CCDカメラは赤 外線に強いため、赤外線天体がとても明るく写ります。さらに、IRAS天体の位 置は、数十秒角から1分角ほどの誤差があります。

そのため、すぐ側にIRAS天体がある場合は、DSS画像に写っていなくても、気 に留めなくなっていました。この星の場合も、特に注意を払いませんでした。 但し、ミラ型変光星の可能性はあるので、MISAOプロジェクトのデータベース で、他の日の画像があるかどうかを、調べることにしました。

その後、データベースを調べると、この星は、11月10日の画像にも写っている こと、そして、9月と11月の間で、明るさが変わっていることが分かりました。 しかし、この時点では、赤色変光星である、と思い込んでいました。

この時の「明るい新天体捜索」では、新変光星候補は、この星を含め、合計9 個見つかりました。これらについて、2002年10月13日に、門田健一さんに最終 確認を依頼しました。同時に、加藤太一さんとJohn Greavesさんに、カタログ の調査を依頼しました。

すぐに、John Greavesさんから返事が届きました。彼は、GSC 2.2星表や、DSS 画像を調べ、この星の位置には、何も存在しないことに気づきました。また、 この星とIRAS 22562+6606との距離も、少し大きすぎると考えました。しかし、 この時点ではまだ、MISAOプロジェクトで測定した位置が間違っている可能性 を指摘していました。

この星とIRAS 22562+6606とは、ほぼ南北に、1分角ほど離れています。しか し、IRAS 22562+6606は、南北には44秒角の位置の誤差がありました。そのた め、この時点でもまだ、この星とIRAS 22562+6606は同一天体で、この星は赤 色変光星だと考えていました。

しかし、John Greavesさんは、DSS画像に写っていないことから、新星かもし れない、と考えるようになりました。そして、更に詳しく調べようとして、

USNO Flagstaff Station Finder Chart Service
http://www.nofs.navy.mil/data/FchPix/cfra.html

で、パロマーの乾板の画像も調べることにしました。

ここでまた、1つの偶然から、John Greavesさんは、新星より、激変星ではな いか、と、考えを変えてしまうことになりました。

パロマー乾板でも、1枚を除いて、この星は写っていませんでした。しかし、 1952年の1枚にだけ、この星が写っていました。明るさは、およそ19等くらい と思えました。

同時に、John Greavesさんからの依頼により、Arne Hendenさんが、この星を 観測してくれました。空の状況が悪い中でしたが、この星を写すことに成功し ました。明るさは、およそ19等くらいでした。

もし、この星が新星だとしたら、爆発してからわずか1年ほどで、また元通り に戻ったことになります。これは、新星としては奇妙に思えます。そのため、 John Greavesさんは、この星を、ふだんは19等で、稀に増光するタイプの、激 変星ではないか、と考えるようになったのです。

これらの情報を得て、吉田誠一も、自分でDSS画像を調べてみました。すると、 ミラ型なら明るく写るはずの、赤外線の波長の画像でも、この星は写っていま せんでした。そこで、この星がミラ型ではなく、特別なものだと気づきました。 そして、10月25日の夕方に、知人に確認観測を依頼するメールを送りました。

その夜、早速、村松利一さんが、滝根町・星の村天文台の65cm反射望遠鏡で、 この星を撮影して、画像を送ってくれました。果たして、この星は、約20等で 写っていました。

2002年10月25日のMisV1181(撮影:村松利一さん)

吉田誠一は、John Greavesさんと同じパロマーの乾板の画像を、自分でも調べ てみて、村松利一さんの画像と比べてみました。そして、1枚だけ、この星が 写っているように見えた、という乾板は、実は、まったく別の場所を撮影した ものであることに気づきました。

つまり、この星は、過去の画像には1枚も写っていない、「新しい星」である ことが分かったのです。

1991年のパロマー乾板
MisV1181は写っていない。

This research has made use of the USNOFS Image and Catalogue Archive operated by the United States Naval Observatory, Flagstaff Station (http://www.nofs.navy.mil/data/fchpix/).

1枚だけ写っていた、という画像が間違いだと分かり、この時点でJohn Greavesさんも、新星ではないか、と考えるようになりました。

そして、門田健一さんの最終チェックを経て、10月27日、この星を、MISAOプ ロジェクトの1181個目の新変光星「MisV1181」と命名して、公表しました。

その後、高尾明さんから、2001年9月16日と17日の画像を送って頂きました。 広角レンズで撮影した画像の端に、MisV1181が入っていました。しかし、 MisV1181は確認できませんでした。高尾明さんは12.3等以下と報告しています。

また、Mike Collinsさんから、2001年6月28日と10月8日の写真でMisV1181が写 野内になっていたが、13.0等以下で写っていなかった、という報告も頂きまし た。

2002年11月9日現在、明るい時期のMisV1181を写した画像は、大倉信雄さんの 2夜の画像しかありません。

もし、2001年秋にこの付近を撮影していた方がおられましたら、MisV1181が写っ ていないかどうか、調べて頂けますと幸いです。

なお、この星の発見に至るまでには、ここに述べられた方以外にも、多くの方 からご助言を頂きました。どうもありがとうございます。


(2002年11月12日追記)

この新星は、IAUC 8014で発表されました。


(2002年11月24日追記)

中村祐二さんから、2001年9月18.677日(UT)に200-mm f/4 のレンズにトライXを 使って撮影した写真では、近くの GSC 4290-01187 (13.2等) ははっきり写って いるのに、この新星は写っていなかった、という報告を頂きました。


(2003年9月25日追記)

2003年春の日本天文学会で、MISAOプロジェクトは天体発見賞を受賞しました。


(2003年10月12日追記)

* 研究

o Distance of MisV1181 (Yoshida, S.; Greaves, J.)

o A Catalog and Atlas of Cataclysmic Variables Living Edition (Ronald Downes, et. al.)

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