C/1996 Q1 ( Tabur ) の発音

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Updated on December 12, 1996

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今までは彗星の読み方はほとんど調査されることなく、いい加減に表記されて きましたが、最近は佐藤勲氏を始めとする方々が熱心に彗星・小惑星の読み方 を調査され、なるべく源音に近づけようとなさっており、この傾向が変わって きています。と同時に、新彗星などは、その源音が判明するまでに日本語表記 が二転三転し、一部で混乱が生じるようにもなってきています。今回の C/1996 Q1 ( Tabur ) もその1つです。

まず、我々が最初に目にする彗星名の日本語表記は、国立天文台が発行してい る NAO news だと思います。この彗星に関しても、その発見を知らせる news の中で「テイバー」とカナ表記していました。しかし、NAO news は速報性を 重要視しているため、彗星名の読み方をまったく調査せず、単なる「勘」で書 いています。従って、ここに書かれている表記は根拠がなく、信頼すべきもの ではありません。

但し、この彗星に限って言えば、その後の調査によって発見者の名前がエスト ニア語のものであること、エストニア語では「タブル」と読むこと、を知らせ る続報が発行されました。
取り敢えず、この時点では「テイバー」が一般に広まりました。しかし、発見 地はオーストラリアですので、私自身はオーストラリアの発音による「タイバー」 を採用していました。

ところで、私自身は自分のホームページ等で彗星の日本語表記をする必要があ るのですが、その情報は佐藤勲氏にほぼ全面的に頼っています。佐藤氏はマー スデン氏等と連絡をとり、発見者の出身地、居住地などを調査の上、その読み 方を調査しています。マースデン氏は発見者本人と連絡をとって、名前の読み 方を佐藤氏に連絡しているようです。

さて、今回の Tabur については、佐藤氏より、8月23日発行の OCCULTATION NEWS MAIL No.123 (受け取ったのは9月3日)、及び9月5日発行の OCCULTATION NEWS MAIL No.128 にて、

  • 発見者はエストニア人である。
  • エストニアでは「タブル」と発音する。
  • 発見者は現在オーストラリアに住んでいる。
  • 発見者は現在、自分の名前をオーストラリア英語で発音している。

という事実を知らされました。

これはそれまでの状況と矛盾しないため、この時点で本格的に「タイバー」を 採用し、個人的なホームページ等で「タイバー」と表記を始めました。また、 この情報は本人から間接的に聞いたことになること、また、途中に推測が入る ことはないと思われることから、その信頼度はかなり高く、今後変更される可 能性は低いと判断し、NIFTY-Serve のような公の場で故意に「タイバー」とい う日本語表記をするように努めました。これは、NAO news が「タブル」以降 訂正を発表せず、また、調査により本人が「タブル」とは発音していないこと から、「タブル」が広まらないようにという私の意思によるものです。

しかし、その後9月16日になって、小島卓雄氏より、小島氏も個人的に調査さ れていたこと、小島氏は直接発見者にメイルで連絡をとり、しかも音声ファイ ルのやりとりによって発音を調査されていたこと、をメーリングリストにて知 りました。小島氏の情報によると、「テイバー」「タイバー」「タブル」の候 補の中から、本人が「テイバー」を選んだ、ということです。また、エストニ ア風に「タブル」と発音しても構わないとのことでした。

小島氏がTabur氏に送った発音サンプルの音声ファイルは tabur.wav (81,964 bytes) です。発音は小島氏によるものです。
小島氏自身は当初「ティバー」と表記しておられましたが、これは誤解を招き やすい(「チバー」に近い音にとられやすい)ということで、その後「テイバー」 と変更して頂きました。ですが、一度「ティバー」という表記が雑誌に掲載さ れてしまい、混乱を引き起こしてしまいました。
この時点で私は、小島氏の調査の方が伝聞経路が短いこと、音声ファイルを用 いていること、「タイバー」ではない、という事実が明確であると思われたこ と、何より小島氏の発言は佐藤氏の調査結果を知った上でのものであることか ら、方針を変更し、「テイバー」を採用することにしました。また、既に「タ イバー」という表記を NIFTY-Serve 等の公の場に広めてしまっていたため、 これ以降は、逆に「テイバー」という表記を努めて広めるようにしました。

小島氏の調査結果は、ご自身が月刊天文誌の執筆者であることもあり、天文雑 誌に広く採用され、一般に「テイバー」が正しいという認識が広まりました。 12月12日現在の諸雑誌や、年末年始に発売される天文書には、主にこの小島氏 の調査結果が反映しているものが多いです。

ところが、11月7日に発行された OCCULTATION NEWS MAIL No.153 の中で、佐 藤氏より、佐藤氏が再び調査されたところによると、やはり「タイバー」であ るべきだ、との主張がなされました。

この時点で、ともに信頼のおける2つの矛盾する事実が存在することになって しまいました。そこで、この件に対して私自身の結論を出すために、11月24日 に Tabur 氏と直接電話でお話ししました。その結果、

  • 本人はオーストラリア英語を話している。
  • 普段はオーストラリア英語風に「タイバー」と呼ばれている。
  • 本人としては、エストニア語風の「タブル」という呼ばれ方でも嬉しい。

ということが分かりました。そこで、この時点でもって、再度方針を変更し、 「タイバー」を採用することにしました。そして現在に至っています。

最後になりましたが、私の意向は、この彗星の読み方を「タイバー」で統一す ることではないことを強調しておきます。実際、Tabur 氏ご自身は、「好きな ように読んでくれて構わない」と言っておられました。この彗星に関しては、 「タイバー」と「タブル」の少なくとも2つの正解があることになりますし、 もしオーストラリア英語を英語がなまっただけのものと考える人にとっては、 「テイバー」も正解となるでしょう。

さらに表記に関して言えば、「タイバ」、「ターブル」、「テーバー」等、人 によって多少の変化は有り得るでしょう。誤解を招くようなことがない限り、 これらはすべて許容されるべきだと考えます。

但し、私としては「タイバー」、「タブル」の2つを推薦します。

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